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損害賠償請求における調停とはなにをするのですか?
損害賠償請求を行うときには「調停」という手続きを利用することができます。調停とは、裁判所で行う話合いのための手続きです。 調停が行われる裁判所は、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所です。 調停では、簡易裁判所の「調停委員会」に間に入ってもらって、相手と損害賠償に関する話合いを続けていきます。 調停委員会は、2人の調停委員と1人の調停官によって組織されます。調停官は、裁判官です。 調停では、損害賠償を求める側が調停を申し立てるので「申立人」、損害賠償請求される人のことを「相手方」と言い、別々の待合室で待機しています。そして、2人の調停委員が待機している部屋に、申立人と相手方が互い違いに入って意見を述べ合う方法により、話し合いを継続していきます。
このように、入れ替わりによって話合いを継続するため、基本的に申立人と相手方が顔を合わせることはありません。 調停委員会から調停案という解決案を提案してもらえることもあり、お互いに感情的になっている場合でも話合いによる解決を目指しやすいです。 また、調停では、賠償金の支払い方法についても自由に決めることができます。たとえば、相手が希望するなら分割払いにすることなども可能ですし、支払時期なども自由に定めることができます。
損害賠償の金額と支払方法について、両者の間に合意ができたら、その内容で調停が成立します。 調停が成立したら、簡易裁判所において「調停調書」を作成します。調停成立後、数日したら簡易裁判所から調停調書が送られてきます。 この場合、調停で決めた通りに相手から支払いを受けることができます。
損害賠償請求において、どのような場合に調停をするべきですか?
調停が向いているケース
まずは、損害賠償請求をするときに、調停が向いているケースを確認していきましょう。
・相手と示談交渉ができない場合
損害賠償請求を行うとき、いきなり調停を利用することは少ないです。 通常は、まずは内容証明郵便によって相手に請求通知を送り、その後示談交渉によって損害賠償請求をするからです。 調停を行うのは、通常はそうした交渉が決裂した場合です。請求通知を送っても、完全に無視されて示談交渉ができない場合にも、調停を申し立てて話合いによる解決を図ることがあります。
・相手と直接やり取りをしたくない場合
損害賠償請求をするとき、まずは話合いをしたいけれども、相手との直接交渉は避けたいという場合があります。 たとえば、相手の素性がわからないので、直接交渉をするのは怖いと言うこともありますし、互いに感情的になってしまうので、自分たちで直接やり取りをすると、どうしても話が進まないこともあります。 このような場合には、調停を利用すると、間に裁判所の調停委員会が介在してくれるので、相手と直接話し合う必要がなくなって、メリットが大きいです。
・裁判所の助けを借りたい場合
自分には法的な知識や交渉の進め方についての知識が全くないので、相手と話をすると不利になってしまうのではないかが不安な場合にも、調停を利用するメリットがあります。 調停を行うときには、調停委員が主導で話し合いをすすめてくれるので、自分が積極的に話をしなくても、合意を目指すことができます。 また、法律の専門家である調停官が関与しており、ときには和解案を出してもらうこともできるので、自分の知識不足もある程度は緩和できるからです。 ただし、調停委員会は中立の立場であり、どちらかの味方になってくれることはありません。完全に自分の味方をしてほしい場合には、代理人としての弁護士をつける必要があります。
・訴訟を避けたい場合
相手との示談が決裂してしまったけれども、訴訟(裁判)は避けたいことがよくあります。訴訟になると、手続きも複雑になりますし、解決までに非常に長い時間がかかってしまいます。 素人には難しい手続きなので、弁護士に依頼することが必要になりますが、そのためには弁護士探しをしなければならず、費用もかかります。 調停ならば、自分一人でも進めることができますし、訴訟よりも手続きが簡単で期間も短くて済みます。 そこで、示談交渉に失敗したけれども訴訟を避けたい場合には、調停を利用するメリットが大きくなります。
・相手との溝が小さいケース
示談が決裂する場合にも、いろいろなケースがあります。中でも、お互いの意見の差が小さい場合には、調停で解決できる可能性が高いです。 たとえば、双方の主張の開きが10万円程度であれば、調停で調停委員会による調整を受けると、お互いが譲歩することによって合意がしやすくなります。
調停が向いていないケース
反対に、調停が向いていないケースがあります。
・相手がまったく話合いに対応しないケース
相手がまったく損害賠償に応じる気が無く、話合いに応じる気配がない場合は、調停に向いていません。このような場合、調停をして裁判所から呼出状が届いても、相手が無視する可能性が高いです。また、裁判所にやってきても、一切の譲歩をせず、調停が不成立になってしまうおそれが高くなります。そうなると、調停をしている時間や調停にかける労力が無駄になるため、はじめから訴訟を起こした方が効率的です。
・相手との対立が深すぎるケース
相手との対立が深すぎて、埋めようがない場合にも、調停は向きません。 たとえば、そもそも相手が「不法行為をしていない」と主張しているなら、こちらがいくら請求額を減額しても、調整することは難しくなるでしょう。 また、金額の開きが大きすぎる場合にも、調停による調整が困難になる可能性が高いです。
調停と仲裁の違いを教えてください。
調停に似た制度として「仲裁」があります。 どちらも、損害賠償請求をするときに利用できますし、示談交渉が決裂したときに利用されることが多い手続きです。 調停と仲裁は、混同されることも多いので、以下でその違いを説明します。
調停とは
まず、調停は、先にも説明したように、簡易裁判所で行われる話合いの手続きです。 裁判所の調停委員が間に入って話を進めます。 調停委員会から和解案の提示があることもあり、その内容を双方が受け入れたら調停が成立します。調停調書は裁判所の書類なので、強制執行力(差押えをする効力)も認められます。
仲裁とは
一方「仲裁」は、裁判所を使わずに、当事者が選んだ「仲裁人」により、紛争を解決する方法です。 仲裁には、厳密には専門機関を用いる方法と専門機関以外の当事者が任意に選んだ仲裁人を用いる方法がありますが、損害賠償請求を行う場合、通常は専門機関を用いて仲裁を行います。 仲裁が行われるのは、ADRという機関です。ADRとは、裁判外の紛争解決機関のことで、各種の法人や団体が設立して、国による認証を受けています。 認証ADRでは、和解のあっせんや仲裁の手続きを利用することができます。 ADRの仲裁を利用すると、仲裁人(ADR機関)が事案に応じた仲裁案を出します。そして、事前に当事者が「仲裁案を受け入れる」ことに同意していた場合には、その判断内容が、当事者を拘束します。
事前にこういった同意をしていない場合には、当事者が仲裁案を受け入れずに異議を出せば、仲裁案が無効になることなどがあります。 ADRには、さまざまな分野の専門機関があります。たとえば下請け関係やスポーツ関係、土地の境界や製造物関係、建設関係などのものがあるので、自分の行おうとする専門のADRにおいて、仲裁決定を受けることができます。 仲裁決定には、裁判所の調停調書と同様、強制執行力が認められます。
調停と仲裁の主な違い
・調停は裁判所、仲裁はADRなどの専門機関で行われる ・調停では話合いができなければ不成立になるが、仲裁では仲裁決定が行われるので、 合意ができなくても解決できる可能性がある
調停で解決しなかった場合はどのような手段がありますか?
調停を行っても、当方と相手の意見の差が激しく、埋めようがないときには解決することができません。この場合、調停は「不成立」となって、終わってしまいます。 調停が不成立になったら、問題は解決されずに放置されてしまうので、損害賠償を受けたければ、別の方法で請求手続をすすめていく必要があります。
ADR
調停が不成立になったとき、ADRを利用することができます。ADRでは、先ほども説明した様に、仲裁決定を受けることができるので、調停で合意ができなかったときにも、双方が仲裁決定を受け入れたら、解決をすることができます。
労働審判
損害賠償請求が、使用者に対するものなど労使間の紛争の場合には、労働審判を利用することで損害賠償請求の手続をすすめることも可能です。 労働審判とは、労働事件に特化した裁判所の紛争解決手続きです。 専門の労働審判員が間に入って当事者間の意見の調整を図り、和解できないかどうかを検討します。合意ができない場合には、裁判所の審判官が労働審判によって、解決方法を決定してくれます。当事者の双方が異議を出さなければ審判内容が確定して、その内容で相手から支払いを受けることができます。労働審判の解決率は、8割以上となっているので、労使間の紛争であれば利用価値が高いです。
訴訟
訴訟は、最終的な紛争解決の方法です。 調停が不成立になったら、ADRや労働審判を利用せずにいきなり訴訟をするケースも多いです。訴訟では、損害賠償を行う側が、相手の不法行為(債務不履行)や損害発生、その内容や損害額を主張立証しなければなりません。 適切に主張と立証ができたら、その内容の判決が下されるので、判決内容に従って相手から損害賠償を受けることができます。 ただし、損害賠償請求を適切に進めるためには、弁護士のサポートがないと厳しくなります。訴訟は非常に専門的で複雑な手続きだからです。 自分一人で進めて訴訟進行に失敗すると、勝てる訴訟も勝てなくなって、損害賠償が認められなくなるおそれもあります。 訴訟を行う場合には、必ず弁護士に依頼しましょう。
以上のように、損害賠償請求を行うとき、話合いによって解決ができる調停は非常に便利な反面、終局的には解決することができないデメリットがあります。 損害賠償請求をするときには、適切な方法を選択しなければいけません。 調停を行うとき、弁護士に代理人を依頼することもできます。 これから誰かに損害賠償請求をしようとしているのであれば、まずは弁護士に対応を相談してみましょう。
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