債務不履行とはなんでしょうか?

債務不履行とは

債務不履行とは、契約によって約束した義務を果たさないことです。 たとえば、お金を返す約束をしていたのに、約束通りの返済をしなければ債務不履行となります。 債務不履行が発生するためには、前提として「契約関係」が必要です。契約によって、約束した義務が「債務」だからです。そこで、何の契約もしていない相手に対して「債務不履行」となることはありません。ただ、取引慣行などを元にして債務が発生することはあります。 次に、義務を果たさない場合でも、それがやむを得ない場合には、債務不履行になりません。たとえば天変地異などが原因で債務の履行ができなかった場合には、債務不履行の責任は発生しません。

債務不履行の種類

債務不履行には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3種類があります。

履行遅滞とは

履行遅滞とは、債務の履行が遅れることです。たとえば、お金を平成29年7月31日までに返済すると約束していたのに、その日を過ぎても返済しなければ履行遅滞となります。

履行不能とは

履行不能とは、債務の履行が不可能になることです。たとえば、相手に売ると約束した骨董品などの商品を壊してしまったりなくしてしまったりした場合などには、その骨董品の引き渡しはできなくなるので、履行不能となります。

不完全履行とは

不完全履行とは、一応債務の履行はするのですが、内容が不完全なケースです。たとえば、商品を納めたのは良いけれど、取り違えがあった場合などが該当します。

債務不履行によって請求できる内容

債務不履行が起こったら、債権者は債務者に対し、約束通りの債務の履行や契約解除、損害賠償を請求することができますが、請求できる内容は、ケースによって異なります。 履行遅滞の場合であれば、遅れているだけなので債務の強制履行をさせることができますし、不完全履行の場合でも、完全な履行を請求することができます。これらのケースでは、損害賠償請求も可能です。 これに対し、履行不能の場合には、完全な債務の履行はできないので、強制履行の請求や完全な履行の請求はできません。履行不能の場合にできるのは、契約の解除か損害賠償請求のみです。

債務不履行で損害賠償が請求できるときはどのようなときでしょうか?

次に、債務不履行の場合に損害賠償請求をできるケースがどのような場合なのか、ご説明します。

債務の本旨に従った履行をしなかったこと

債務不履行が成立するのは、相手が債務の本旨に従った履行をしなかったときです。債務不履行には、履行遅滞と履行不能、不完全履行の3種類がありますが、これらはどれも、相手が約束通りの債務の履行をしなかったときです。そして、どの場合でも、損害賠償請求は可能です。 わかりやすく言うと、契約をしたのに、相手が契約を守らなかったら、基本的に損害賠償請求をすることができるということです。

債務者の故意過失と立証責任

債務不履行責任を追及する場合、債権者側が、債務者の故意や過失を立証する必要はありません。故意や過失がないのであれば、債務者側が無過失を立証しなければならないのです。 そこで、債務者が約束通りの日時までに債務の履行をしなかったとき、債務者の責任で債務の履行ができなくなったとき、債務者が不完全な義務履行をしたときには、損害賠償請求をすることができます。 不法行為責任の場合には、債権者側が故意過失を立証しなければならないので、債務不履行責任の方が債権者の負担が軽くなります。

因果関係と損害発生

債務不履行にもとづいて損害賠償請求をするときには、損害が発生したことが必要です。 債務不履行があっても損害が発生しないこともありますが、そのときには解除などはできても損害賠償請求はできません。 また、損害発生と債務不履行との間に因果関係があることも必要です。そのときの因果関係は「相当因果関係」に限定されます。債務不履行と何らかの関係があるというものではなく、債務不履行によって発生したことが「相当」と言える範囲に限定されるということです。 たとえば、約束通りに商品の引き渡しを受けたらそれを転売して得られる利益がある場合に、その転売利益を損害として請求することなどが可能です。

損害賠償を請求される債務不履行はどのようなものがありますか?

反対に、債務者の立場から見て損害賠償請求をされる債務不履行には、どのようなものがあるのか、見てみましょう。 以下で、5つの例を確認してみましょう。

具体例1 支払いの遅れ

たとえば、お金を支払う約束をしたときに、支払期日までに支払をしなければ、「遅延損害金」が発生することが知られています。遅延損害金とは、金銭債務の履行遅滞になったとき(お金を約束通りの期間内に支払わなかったとき)に発生する損害賠償金です。 お金の支払い債務については、履行不能(履行ができなくなること)にはならないと考えられていて、支払をしない限り、遅延損害金が発生し続けます。

具体例2 不動産の引き渡し

債権者と不動産の売買契約をしたときに、その不動産の引き渡しができない場合には、履行不能になるので損害賠償請求をされます。不動産売買契約では、売買の対象は「その特定の」不動産である必要があるので、その不動産が他人物であったり、2重譲渡をしていて他人に売却してしまったりした場合には、約束通りの義務の履行ができなくなって、履行不能となります。

具体例3 二重譲渡

インターネットオークションで、中古のカメラを売却する場合なども同様です。中古カメラは1つしかないので、それを2重に売却して、約束通り引き渡すことができなくなってしまったら、履行不能となって損害賠償をされるおそれがあります。 また、壊れたり2重譲渡したりしていなくても、約束の期日までに引き渡しができなかったら、履行遅滞となるので、やはり損害賠償請求をされるおそれがあります。

具体例4 引っ越しでの物損

たとえば、引っ越し業者が作業を依頼されたところ、引っ越し作業自体はしたけれども、作業中に物を壊してしまった場合などには不完全履行となります。その場合、引っ越し業者は壊れた物についての損害賠償請求をされてしまいます。 もし、引っ越し当日に業者が現地に行かず、作業をしなかった場合には、履行遅滞となることもありますし、作業日がその日から遅れると契約の意味が無くなる場合には、履行不能となることもあります。これらの場合、どちらの場合でも、引っ越し業者は損害賠償請求をされる可能性があります。

具体例5 売却した乳牛の引き渡し遅れ

たとえば、5頭の乳牛を売却する契約をしたとします。このとき、期限までに乳牛の引き渡しをしなければ、履行遅滞となって損害賠償請求をされてしまいます。 また、期限までに引き渡しをしたとしても、病気の乳牛が3頭含まれていたら、不完全履行となるので、やはり損害賠償請求をされることになります。

債務不履行による損害賠償請求に時効はあるのでしょうか?

債務不履行の時効の期間

債務不履行による損害賠償請求に、時効はあります。 ただし、その期間は債権の種類によって、異なります。 通常一般の債権の場合には、債権の履行を請求できるようになった時点から10年です。 これに対し、商事債権の場合には、債権の履行を請求できるようになった時点から5年となります。商事債権とは、営利目的を持った企業や個人(商人)が債権者となっている場合や、取引内容が商事性を持つ場合の債権のことです。 たとえば、貸金業者からお金を借りたケース、営利目的を持った企業同士の取引のケース、事業のための借入などが該当します。まとめると、以下の通りです。

  • 民事債権の場合…10年
  • 商事債権の場合…5年

債務不履行の時効の起算点

損害賠償請求権の時効については、その期間をいつからカウントするのかも問題です。 このような、時効のカウントを開始する時点のことを、時効の起算点と言います。 債務不履行にもとづく損害賠償請求権の場合、時効の起算点は、債権の履行を請求できるようになったときです。通常は、債務の履行日です。 たとえば、物の引き渡しをする契約の場合には、約束した引き渡し期日が時効の起算点です。

ただし、民法には「初日不算入の原則」という決まりがあります。これは、期間の計算をするとき、初日を算入しないということです。そこで、先ほどの、物の引き渡しをする契約の場合、引き渡し期日の翌日から起算して10年が経過したら、損害賠償請求権が時効消滅して、請求できなくなってしまいます。

以上のように、債務不履行にもとづく損害賠償請求権には時効があるので、権利を取得したら、早めに相手に請求をして、賠償金の支払いを受けるべきです。
自分では適切に請求手続をとれない場合には、法律に詳しい弁護士の力を借りましょう。

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